黒帯シネマ道場『ルール 無法都市』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2015年6月号の記事。ポリスアクション『ルール 無法都市』を取り上げました。

元格闘家バス・ルッテンの出演作について書きたかったんですが、誌面に掲載する写真をちゃんとDVDメーカーから借りられたのは『ルール 無法都市』のみ。

バス・ルッテンの格闘アクション的な見せ場はごくわずかだし、どうしようかとも思ったんですが、作品として面白いし、主演ジョニー・ストロングがすばらしかったので、こちらの『ルール 無法都市』を紹介しました。

ジョニー・ストロングの格闘&銃撃スキルはこちらの動画でご堪能ください。戦闘力高すぎじゃないですか、これ。

ルール 無法都市

2010年/アメリ

監督:ウィリアム・カウフマン 出演:ジョニー・ストロング、トム・ベレンジャーバス・ルッテン、音楽:ジョニー・ストロング

ニューオリンズで人を生きたまま焼く凶悪な殺人事件が発生。軍隊上がりの刑事ショーンが相棒の黒人刑事ウィルと捜査を進めると、背後に戦闘のプロ集団が存在することが判明する……。


やりすぎバス・ルッテンの活躍を期待!

 格闘家が出たB級アクションが嫌いになれない僕とあなたの黒帯シネマ道場! アクション映画に出演する格闘家は数多くいます。最近だと『ワイルド・スピードSKY MISSION』のロンダ・ラウジーや『デッドプール』に出演予定のジーナ・カラーノなどが話題になってますが、筆者が個人的に活躍を期待しているのがバス・ルッテンです。
 ルッテンは日本の団体パンクラスでの活躍でブレイクし、後にUFCで王者にもなっているオランダ人の元総合格闘家で、役者として映画やドラマに多数出演しています。
 総合格闘技の描き方が素晴らしかった『闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ』では、オランダからの移民をコミカルに好演。役者としての腕を見せてくれました。主演作『バトルサバイバー』では強豪格闘家マルコ・ファスと戦ったりするんですが、残念なことに格闘アクションの演出がそうとうユルいんですよね……。ただ、演出のダメさが影響しない、カットを割らずに見せる打撃や組み技の迫力はやはりスゴいものがありました。
 そして、今回紹介する『ルール 無法都市』。主人公の刑事コンビの設定が似ていることなどから、一部で“アップデートされた『リーサル・ウェポン』”といったように評価されるハードなポリスアクションです。本作でルッテンは犯罪組織の幹部を演じ、ワルな魅力を発揮しています。肉弾戦でも凶器を使った荒々しい凶悪ファイトを見せるんですが、これもルッテンの持ち味です(ルッテンがDVDで教える護身術が凶器も使っていてバイオレンスすぎると、テレビ番組『マツコ&有吉の怒り新党』でネタにされたこともあります)。
 とはいえ、ルッテンを出すなら、やっぱり格闘技色の強い戦いも見せてほしかった。主演のジョニー・ストロングは劇中でのナイフさばきがかなり上手くて、ライフルの構えを変えるスイッチ(グリップを持つ手を右から左に変える動作)も異様にスムーズだったりして、戦闘力高すぎな逸材なんですが、彼の本作のためのトレーニング映像を見ると寝技の練習もみっちりやってるんですよ。いつかルッテンVSストロングの総合格闘技的アクションをたっぷりと見せてほしいものです。

ルール (無法都市) [DVD]

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黒帯シネマ道場『殺しのアーティスト』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2015年3月号の記事。ナイフを使った戦いが描かれる『殺しのアーティスト』を取り上げました。

ちなみに原稿中で紹介しているトレーニング法“クロックシステム”なんですが、アメリカのドラマ『TRUE DETECTIVE』の第2シーズンでも女刑事がやってました。

殺しのアーティスト

1991年/アメリ

監督:ウォルター・サレス 出演:ピーター・コヨーテチェッキー・カリョ 

写真集の撮影のためにブラジルに滞在しているアメリカ人写真家マンドレークはある殺人事件を調べたところ、恋人と一緒にいるときに襲われ瀕死の重傷を負ってしまう。彼は復讐のため偶然見かけたナイフ使いからナイフの技術を学ぼうとする。


ナイフマニア絶賛のナイフファイト映画

 ブラジルと言うと柔術カポエイラアントニオ猪木を連想してしまう僕とあなたの黒帯シネマ道場! 今回取り上げるのは『殺しのアーティスト』。前号で紹介した『ハンテッド』と同じく東南アジア系のナイフ格闘術がフィーチャーされているアクション映画で、『ハンテッド』同様ナイフマニア(そういう人たちがいるのです)からの評価も高い一作です。
 ただし、トミー・リー・ジョーンズ主演でメジャー感のある『ハンテッド』にくらべて、こちらの『殺しのアーティスト』は低予算テイスト。しかし、それゆえの生々しさが、ブラジルの治安の悪い地域という舞台にもマッチして、作品にヒリヒリする緊張感を与えています。
 ナイフに関する描写のディテールが充実していることも、本作を魅力的にしています。例えば、主人公がナイフを買うシーン。主人公にナイフ格闘を指南する殺し屋がさまざまなタイプの中から目当てのナイフを選び、さらには隠し持つためのホルスターを買い求めるところなど、非常にプロっぽくてゾクゾクします。
 そして、何よりもすばらしいのがトレーニングシーン。鏡に円を8分割する形で線を引き、その線に添ってナイフを振る訓練も描かれます。これは“クロックシステム”と言われるもので(引かれたラインが時計に似てるので、こう呼ばれるそうです)、実際にある練習方法です。
 この他、火を点けた線香をナイフに見立てて、相手の攻撃をさばく練習方法なども出てきます。ナイフを扱うので、どの訓練も緊張感に満ちている点が素晴らしいです。
 これらの訓練シーンでは、通常のアクション映画のそれと違って、主人公が強くなるという喜びは感じられません。むしろ日常と違う世界に足を踏み入れて後戻りできないんじゃないかという恐ろしさが感じられます。そういう点も含めて、異色作と言えます。
 本作の監督は後に『セントラル・ステーション』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞し、傑作『シティ・オブ・ゴッド』も製作する、ブラジル出身のウォルター・サレス。サレスの手腕でハッとさせられる画作りが行われ、よくあるB級アクションとは確実に違う味わいになってるので、ぜひ一度ご鑑賞を!

殺しのアーティスト [DVD] [DVD]

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黒帯シネマ道場『闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2014年3月号の記事。『ピクセル』などのコメディでおなじみのケヴィン・ジェームズ主演の『闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ』を取り上げました。

総合格闘技を扱った映画はいろいろとありますが、個人的には世間で評価の高い『ウォーリアー』や『激戦 ハート・オブ・ファイト』よりも、こちらの『闘魂先生』ほうが好きです。もっともっと知られてほしい1本です。

ちなみに原稿中で触れたアンソニー・ペティスの金網三角跳び蹴りはこちらです。

闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ

2012年/アメリ
監督:フランク・コラチ 脚本:ケヴィン・ジェームズ 出演:ケヴィン・ジェームズ、サルマ・ハエック 
42歳の生物教師スコットはリストラ対象になった同僚の音楽教師を救うため、賞金目当てで総合格闘技に挑戦する。だが、スコットはレスリング経験はあっても、今や中年メタボで……。


邦題は「……」、中身は「!!」な格闘コメディ

 9月に開かれるUFCの日本大会が楽しみな僕とあなたの黒帯シネマ道場! 今回取り上げるのは、そのUFCに中年教師が挑戦する『闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ』です。
 正直残念な邦題ですが、中身は自信をもってオススメできます。42歳の教師スコットが経営難でリストラされかけた同僚の音楽教師を救うため総合格闘技に挑むというストーリー。予算削減で音楽などの授業が廃止される事態はアメリカで実際に起きていることで、そうした社会背景も取り込んだコメディです。
 総合格闘技の描き方に関してですが、「見事!」と感じられるポイントがいくつかあります。
 まずポイント1は、格闘技ファンにとって「あっ、これ、見たことある!!」という技が使われること。例えば、金網を使った三角跳び蹴りというド派手な技も出てきますが、これはWECでアンソニー・ペティスが本当に使った技。また、選手同士がお互いに頭をつかんだ超至近距離で殴り合う場面では、「フライ対高山のよう」という実況のセリフが入りますが、これはPRIDEでドン・フライ高山善廣が繰り広げた壮絶なドツキ合いのこと。このように格闘技ファンの記憶を刺激する戦いの描写が入っているのです。
 ポイント2は格闘技ファンにおなじみの選手や関係者がキャストとして多数登場すること。主人公スコットを鍛えるトレーナーのニコを演じるのは、パンクラスなど日本のリングにも何度も上がったバス・ルッテン。メインキャストとして陽気なオランダ移民を見事に演じています。その他のカメオ出演者も充実していて、石井慧の登場も見逃せません。
 ポイント3は総合格闘技の映像としての見せ方が見事なこと。使われる格闘技の技術がすばらしいのはもちろんですが、それをわかりやすく、そしてドラマチックに見せてくれるんです。関節技が極まるか極まらないかの展開もスリリングに見せるので、手に汗握ってしまいます。
 主人公スコットを演じたのは、コメディで活躍するケヴィン・ジェームズ(脚本も担当)。リズミカルなミット打ちの切れの良さから推測すると、相当、練習したものと思われます。彼のがんばりもチェックしてほしいので、邦題で食わず嫌いせず、ぜひ見てください!

黒帯シネマ道場『ワイルド・スワン』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2014年3月号の記事。ロシアの元バレリーナが主演した『ワイルド・スワン』を取り上げました。

ワイルド・スワン

2013年/アメリカ・ロシア
監督:ロバート・クロムビー、ソフィア・スカヤ 出演:ソフィア・スカヤ、クリスチャン・スレーター

ロシアン・マフィアに夫を殺され、娘を誘拐されたバレリーナのマヤは罠にハメられて投獄される。娘を救うために、マヤは脱獄を決意し……。


極真空手大山倍達バレリーナ最強説を実証!?

 空手をやってるわけでもないのに、空手家の十字を切る姿や「押忍!」というあいさつにあこがれる僕とあなたのための黒帯シネマ道場! 今月取り上げるのは、バレリーナがバレエの技術で敵と戦うクライムアクション『ワイルド・スワン』です。
 原題は『ホワイト・スワン』(『アサシン・ラン』という別のタイトルもあるようです)。どうも『ブラック・スワン』にあやかろうとしているようで、そんなしたたかなところも嫌いになれませんが、格闘技オタク的にこの作品が気になるのは、主人公がバレリーナという点なんです。
 極真空手大山倍達総裁は生前にこういう言葉を残しています。
アメリカに“バレリーナと喧嘩するな”ということわざがある」(『パワー空手』1985年12月号より)
 本当にこういうことわざがあるかどうかは不明なんですが、ボディビルダー的な肉体よりもリズム感に優れた柔らかくバネが強いバレリーナ的な肉体のほうが戦いに向いているということを書いた大山総裁のコラムの中に、この一文は登場します。
 この大山総裁のバレリーナ最強説を実証する作品が、『ワイルド・スワン』なのです!(製作者たちが大山総裁の言葉を知っていたのかどうか気になります)
 主演・監督のソフィア・スカヤは1987年にロシアに生まれ、9歳でバレエを始めて17歳のときにプロのバレリーナとなり、2007年にハリウッドに渡って女優業に進出したというキャリアの持ち主。
 『ワイルド・スワン』には彼女がバレエを踊るシーンもあるんですが、本作の肝はバレエを使った格闘です。
 まず何と言っても体が柔らかいので、蹴り足のあがりかたがハンパない。何たってソフィアの必殺技は、正面に向かって蹴りあげた足が自分の背後にいる相手を直撃する大開脚キックなんですから。さらにはバレエ的なスピンの遠心力を使った回転ヒジ打ちや回転ハイキックも登場。柔軟性を活かして『マトリックス』のように上体を後ろに反らして相手のパンチを避ける芸当まで披露しています。
 バレエ的な動きで敵と戦うシーンはやっぱりちょっと変で笑ってしまうところもあるんですが、そこでの身体能力にすさまじいものがあるのも事実。天国の大山総裁、バレリーナはやっぱり強いみたいです!!

ワイルド・スワン [DVD]

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黒帯シネマ道場『ミリオンダラー・ベイビー』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2013年5月号の記事。『ミリオン・ダラー・ベイビー』を取り上げました。
ここで紹介したルシア・ライカのことは格闘家時代から好きだったので、女優としてももっともっと活躍してほしいです。

ミリオンダラー・ベイビー

2004年/アメリ
監督・出演:クリント・イーストウッド 出演:ヒラリー・スワンクモーガン・フリーマン、ルシア・ライカ 
小さなボクシングジムを営むフランキーを、女子選手マギーが訪れる。「女子は指導しない」と拒むフランキーだったが、マギーは必死に練習を重ね……。


男とも戦った最強女子選手が女優に!

 映画を見ただけで強くなれる(と信じたい)黒帯シネマ道場! 少し古い話ですが、南海キャンディーズしずちゃんの挑戦を見て、女子ボクシングの存在を知った方もいるのでは?
 アメリカでは、あのモハメド・アリの娘レイラ・アリがボクサーとして高い人気を誇ってましたが、玄人筋の間でレイラよりも評価が高く、最強と推されるのはルシア・ライカというオランダ出身の黒人選手です。
 ルシアはもともとキックボクサーで、そのころも無敵の強さを誇り、K−1のリングで後の五輪テコンドー銅メダリスト岡本依子をボコボコにしたこともありました。あまりの強さから戦う相手がいなくなり、何と男子のタイ人とまで対決(これはさすがに彼女が負けてます)。
 ついに(女子には)無敗のままボクシングに進出。ルシアを取り上げたドキュメンタリー映画『Shadow Boxers』を見ると彼女の別格の強さがわかります。米国のテレビ番組『Sport Science』では、彼女のパンチ力が、ある男子五輪ボクサーや男子総合格闘家より強いと証明されたことも。結局、彼女はボクシングでも負け知らずのまま引退します。
 その後、選んだ道は女優。モデルばりのスタイルの美人で、現役時代から映画出演経験もありましたので、納得の転身でした。
 彼女は『ローラーボール』(インドネシア出身の強気な選手役)、『Lの世界』(シーズン2はチョイ役だったのが、シーズン5では出番も増えて出世)、『スタートレック』(全然目立ってません)などに出てますが、おすすめはボクシング映画『ミリオンダラー・ベイビー』。
 ルシアはヒラリー・スワンク演じる主人公の最大の敵である娼婦あがりのドイツ人王者役をつとめただけでなく、ボクシング指導も担当。
 ヒラリーとはみっちり訓練を重ねたそうで、ルシアの迫力あるフックをヒラリーがかわしつつボディとフックを入れてダウンを奪うシーンなど、非常にあざやかなものになってます。ルシアのフットワークひとつとっても“本物感”が出まくっていて、映画のボクシングシーンとして出色の出来なのではないでしょうか。
 ちなみに劇中では『キン肉マン』の残虐超人ばりの極悪ファイトを見せるルシアですが、格闘技雑誌のインタビューでは指導者への深い敬意を語るような超いい人なんですよ!


ミリオンダラー・ベイビー [DVD]

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黒帯シネマ道場『スパルタンX』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2013年3月号の記事。ベニー・ユキーデを紹介したいと思い、『スパルタンX』を取り上げました。

原稿中でも書いてますが、すぐれた格闘家=すぐれたアクション俳優でないし、すぐれたアクション演出にもめぐまれないといいアクションは生まれないものですが、そうしたもろもろの条件がそろったのが『スパルタンX』なのかな、と。

スパルタンX

1984年/香港
監督:サモ・ハン・キンポー 出演:ジャッキー・チェンサモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウ、ベニー・ユキーデ
舞台はスペイン。ワゴンカーで軽食を売っているトーマスとデビッドは、女泥棒のシルビアと出会う。探偵のモビーは謎の紳士に頼まれてシルビアを捜していたが、怪しい集団も彼女を追っていた……。


伝説の格闘家の国宝級アクション!

 練習せずに映画を見て強くな(った気にな)る黒帯シネマ道場! 格闘技のセンスがないと格闘アクションにリアリティを込められませんが、必ずしもよい格闘家=よいアクション俳優でないのも難しいところ。例えば、ジャッキー・チェンの作品作りにせまったドキュメンタリー『ジャッキー・チェン マイ・スタント』には、『Who am I?』の撮影現場で格闘技の経験が豊富なオランダ人ロン・スムーレンバーグが立ち回りをうまくこなせない様子も収められていました。
 そんな中、アクションシーンを見事に演じられる格闘家の筆頭として名前をあげたいのが、ベニー・ユキーデです。
 ベニーと言っても、おそらく若いかたはご存じないでしょうから説明すると、70〜80年代に大活躍し、そのあまりのスピードから“ザ・ジェット”の異名もとったアメリカ人キックボクサーです。梶原一騎原作のセミドキュメンタリー形式のマンガ『四角いジャングル』では主人公の最大のライバルで顔も性格もいいナイスガイとして描かれ、『週刊少年マガジン』の表紙&グラビアを飾ったことまである、まさに往年の人気スター!
 ベニーは俳優でもあるんですが、彼の映画内ベストバウトが『スパルタンX』での対ジャッキー・チェン戦。ジャッキー自身もこのシーンを高く評価してるんですが、ジャッキーがジャブのフェイントを入れるとベニーがすばやく反応するといった格闘技的にグッとくる描写が入ってます。ベニーの後ろ回し蹴りの風圧でロウソクの火が消える、ケレン味ある演出も最高! 戦いの終盤での長くテンポの速い攻防をカットを割らずに見せているのも、2人の実力あってのものでしょう。
 ベニーのその他のアクションだと、同じくジャッキーの『サイクロンZ』でユン・ピョウに放った飛距離のある大ジャンプ後ろ回し蹴りが超必見。ブルース・リーの娘シャノン・リーと戦って金的を攻められまくってコミカルな姿を見せる『エンター・ザ・イーグル』も見てほしいです。用心棒役の多かったベニーが、ついにボス役に昇格してますし。
 ちなみに最近のベニーは、スティーヴン・キング原作のホラー『1408号室』に出てるんですが、セリフなしで出演時間は約6秒なのに、ものすごいインパクトを残してます。やっぱりベニーは速くてスゴい!


スパルタンX エクストリーム・エディション [Blu-ray]

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黒帯シネマ道場『ジェット!!』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2013年2月号の記事。『007 ダイ・アナザー・デイ』にも出演した韓国系アメリカ人リック・ユーンの主演作『ジェット!!』を紹介しました。

第1回の『リーサル・ウェポン』の原稿中でも触れた監獄生まれの武術が個人的に気になっていて、それで『ジェット!!』を取り上げたんですが、映画を見ても、監獄武術がどういうものなのか全然わからないんですよねぇ……。

ちなみに原稿中で書いた「52ブロックの実践者という人々の動画」は、こんな感じのものです。

ジェット!!
2008年/アメリ
監督:ジェシー・V・ジョンソン 製作・脚本・主演:リック・ユーン
殺し屋マックスに拾われて育ったチャンスに、ある女性歌手暗殺の依頼が。彼女のボディガードはマックスのもとで兄弟として一緒に暮らしていたマイルズだった……。


刑務所生まれの謎の武術!

 腕立て伏せは嫌いだけどゴロ寝して映画を見るのは大好きな僕とあなたのための黒帯シネマ道場!
 いろんな格闘技を使ったアクション映画がありますが、今回紹介する『ジェット!!』で扱われているのは“52ブロック”という知られざる武術です。52ブロックは別名“監獄ロック”とも呼ばれ、その名のとおり、刑務所の中で生まれた武術と言われてます。
 この連載の初回で取り上げた『リーサル・ウェポン』でも使われていて──と言いつつ劇中ではそれっぽい動きは見られず、ノベライズだと狭い場所で使えるテクニックという説明があり、コサックダンス的な蹴りの描写も出てきますが、今イチ正体がよくわかんない……。
 こんなときはウィキペディア先生に聞いてみよう! ということで、英語版ウィキペディアで52ブロックを調べると、“そもそも、そんな武術は実在するのか?”みたいな議論が紹介されています(で、そこでは実在するという結論に)。さらには“起源はアフリカの武術にあるのかもしれない”と無闇にスケールの大きい話にもなっていて、正直うさんくさいんですが、ロマンはあります。
 YOUTUBEで、52ブロックの実践者という人々の動画もいくつか見ましたが、パンチの攻防で攻撃にも防御にも(拳より硬くて痛い)ヒジを使っていて、試合では反則だけど実戦で使えるボクシングといった印象です。
 では、『ジェット!!』ではどんな感じかと言うと、主演リック・ユーンのインタビューでは「52ブロックは空間を利用した戦い方」で、壁を背にして相手の攻撃を防いだり、壁を蹴って相手との間合いを詰めたりする、みたいに説明されてるんですが……そんな技出てこないよ! ラストの戦いで柱を背にするのが唯一それっぽいかなあ。あと、リズミカルにノーガードでパンチをかわすのもそうかも。ともあれ劇中で52ブロックという単語も出てこないし、もっと前面に出してほしかったなあ。
 とはいえ、超危険なスタント(高層ビルからのダイブとか車が正面衝突するカーチェイスとか)をガンガンやってる心意気は立派だし、テコンドーの実力者で身体能力の高いリック・ユーンはアクションばえするし、アクション映画好きとしてグッと来る点があるのも確か。機会があればぜひご鑑賞を!