黒帯シネマ道場『闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2014年3月号の記事。『ピクセル』などのコメディでおなじみのケヴィン・ジェームズ主演の『闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ』を取り上げました。

総合格闘技を扱った映画はいろいろとありますが、個人的には世間で評価の高い『ウォーリアー』や『激戦 ハート・オブ・ファイト』よりも、こちらの『闘魂先生』ほうが好きです。もっともっと知られてほしい1本です。

ちなみに原稿中で触れたアンソニー・ペティスの金網三角跳び蹴りはこちらです。

闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ

2012年/アメリ
監督:フランク・コラチ 脚本:ケヴィン・ジェームズ 出演:ケヴィン・ジェームズ、サルマ・ハエック 
42歳の生物教師スコットはリストラ対象になった同僚の音楽教師を救うため、賞金目当てで総合格闘技に挑戦する。だが、スコットはレスリング経験はあっても、今や中年メタボで……。


邦題は「……」、中身は「!!」な格闘コメディ

 9月に開かれるUFCの日本大会が楽しみな僕とあなたの黒帯シネマ道場! 今回取り上げるのは、そのUFCに中年教師が挑戦する『闘魂先生 Mr.ネバーギブアップ』です。
 正直残念な邦題ですが、中身は自信をもってオススメできます。42歳の教師スコットが経営難でリストラされかけた同僚の音楽教師を救うため総合格闘技に挑むというストーリー。予算削減で音楽などの授業が廃止される事態はアメリカで実際に起きていることで、そうした社会背景も取り込んだコメディです。
 総合格闘技の描き方に関してですが、「見事!」と感じられるポイントがいくつかあります。
 まずポイント1は、格闘技ファンにとって「あっ、これ、見たことある!!」という技が使われること。例えば、金網を使った三角跳び蹴りというド派手な技も出てきますが、これはWECでアンソニー・ペティスが本当に使った技。また、選手同士がお互いに頭をつかんだ超至近距離で殴り合う場面では、「フライ対高山のよう」という実況のセリフが入りますが、これはPRIDEでドン・フライ高山善廣が繰り広げた壮絶なドツキ合いのこと。このように格闘技ファンの記憶を刺激する戦いの描写が入っているのです。
 ポイント2は格闘技ファンにおなじみの選手や関係者がキャストとして多数登場すること。主人公スコットを鍛えるトレーナーのニコを演じるのは、パンクラスなど日本のリングにも何度も上がったバス・ルッテン。メインキャストとして陽気なオランダ移民を見事に演じています。その他のカメオ出演者も充実していて、石井慧の登場も見逃せません。
 ポイント3は総合格闘技の映像としての見せ方が見事なこと。使われる格闘技の技術がすばらしいのはもちろんですが、それをわかりやすく、そしてドラマチックに見せてくれるんです。関節技が極まるか極まらないかの展開もスリリングに見せるので、手に汗握ってしまいます。
 主人公スコットを演じたのは、コメディで活躍するケヴィン・ジェームズ(脚本も担当)。リズミカルなミット打ちの切れの良さから推測すると、相当、練習したものと思われます。彼のがんばりもチェックしてほしいので、邦題で食わず嫌いせず、ぜひ見てください!