黒帯シネマ道場『殺しのアーティスト』

月刊誌『DVD&ブルーレイVISION』で、僕が連載していた格闘アクション映画を紹介するコラム「黒帯シネマ道場」。編集部のご厚意で原稿を転載させていただきます。

今回、掲載するのは、2015年3月号の記事。ナイフを使った戦いが描かれる『殺しのアーティスト』を取り上げました。

ちなみに原稿中で紹介しているトレーニング法“クロックシステム”なんですが、アメリカのドラマ『TRUE DETECTIVE』の第2シーズンでも女刑事がやってました。

殺しのアーティスト

1991年/アメリ

監督:ウォルター・サレス 出演:ピーター・コヨーテチェッキー・カリョ 

写真集の撮影のためにブラジルに滞在しているアメリカ人写真家マンドレークはある殺人事件を調べたところ、恋人と一緒にいるときに襲われ瀕死の重傷を負ってしまう。彼は復讐のため偶然見かけたナイフ使いからナイフの技術を学ぼうとする。


ナイフマニア絶賛のナイフファイト映画

 ブラジルと言うと柔術カポエイラアントニオ猪木を連想してしまう僕とあなたの黒帯シネマ道場! 今回取り上げるのは『殺しのアーティスト』。前号で紹介した『ハンテッド』と同じく東南アジア系のナイフ格闘術がフィーチャーされているアクション映画で、『ハンテッド』同様ナイフマニア(そういう人たちがいるのです)からの評価も高い一作です。
 ただし、トミー・リー・ジョーンズ主演でメジャー感のある『ハンテッド』にくらべて、こちらの『殺しのアーティスト』は低予算テイスト。しかし、それゆえの生々しさが、ブラジルの治安の悪い地域という舞台にもマッチして、作品にヒリヒリする緊張感を与えています。
 ナイフに関する描写のディテールが充実していることも、本作を魅力的にしています。例えば、主人公がナイフを買うシーン。主人公にナイフ格闘を指南する殺し屋がさまざまなタイプの中から目当てのナイフを選び、さらには隠し持つためのホルスターを買い求めるところなど、非常にプロっぽくてゾクゾクします。
 そして、何よりもすばらしいのがトレーニングシーン。鏡に円を8分割する形で線を引き、その線に添ってナイフを振る訓練も描かれます。これは“クロックシステム”と言われるもので(引かれたラインが時計に似てるので、こう呼ばれるそうです)、実際にある練習方法です。
 この他、火を点けた線香をナイフに見立てて、相手の攻撃をさばく練習方法なども出てきます。ナイフを扱うので、どの訓練も緊張感に満ちている点が素晴らしいです。
 これらの訓練シーンでは、通常のアクション映画のそれと違って、主人公が強くなるという喜びは感じられません。むしろ日常と違う世界に足を踏み入れて後戻りできないんじゃないかという恐ろしさが感じられます。そういう点も含めて、異色作と言えます。
 本作の監督は後に『セントラル・ステーション』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞し、傑作『シティ・オブ・ゴッド』も製作する、ブラジル出身のウォルター・サレス。サレスの手腕でハッとさせられる画作りが行われ、よくあるB級アクションとは確実に違う味わいになってるので、ぜひ一度ご鑑賞を!

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