先日、仕事から逃避してyoutubeを見てたら、以前から好きだったジャズギタリスト、ウィリアム“スペースマン”パターソンの未発表音源を見つけて、声を上げそうになってしまった。


知らない方のために、ウィリアム“スペースマン”パターソンについて説明しておきましょう。

スペースマンは70年代から活動を始めているキャリアの長いギタリストで、セッションの仕事が非常に多く、ジャズ、フュージョン、ファンク、R&B、ヒップホップと様々なジャンルで、それらにおける重要人物とプレイしてます。
http://www.myspace.com/spacemanpatterson


思いつくままに彼が共演したミュージシャンの名前をあげていくと──。
ジャズだとマイルス・デイヴィス、サン・ラ、ジェイムス・ブラッド・ウルマーマーカス・ミラーデヴィッド・サンボーンなどなど。
ファンクだとP-FUNKメイシオ・パーカーとフレッド・ウェズリーなどなど。
ヒップホップだとKRS ONE、ウルトラマグネティックMC’s、LLクールJなどなど(ウルトラマグネティックMC’sではプロデュースにまで関わって、かなり貢献している)。
レゲエではスライ&ロビーの作品にも参加している。
あ、アート・リンゼイのアンビシャス・ラヴァーズにも参加してたっけ。音源は無いけどヴァーノン・リードとも共演してます。


以上の面子は、黒人音楽の歴史の教科書があれば、確実に名前が載る人ばかりだと思う。
ちなみに、日本人だと菊地雅章とか中村照夫、久保田利伸などと共演。
いま体の不調等で大変だという菊地雅章だが、スペースマンは彼の名盤『ススト』『AAOBB』などのエレクトリック路線にほぼレギュラー参加している。プーさん(菊地)にはぜひとも復活してもらって、エレクトリック路線の新作を聞かせてほしいなあ。
スペースマンが参加した、久保田利伸の『BONGA WANGA』はジョージ・クリントンブーツィ・コリンズメイシオ・パーカー、ヴァーノン・リードと参加ミュージシャンが非常に豪華で、この手の音が好きな人なら聞いて損はないはず。


さらに、ビル・コスビー、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズといった黒人文化の重要人物が音楽活動をする際に、プロデューサー&プレイヤーとしてサポートしている。


といった具合でスペースマンの経歴は非常に充実していて派手なんだが、プレイ自体はギターソロを弾きまくるタイプではないせいか(たまにそういうプレイもしてるんだけど)、日本の雑誌ではほとんど注目されてない。
インタビューが掲載されたのも僕が知ってる限りでは『JAZZ LIFE』1993年12月号だけ。ただ、その『JAZZ LIFE』の記事は雑誌の頭の方のカラー4ページという大きい扱いで、文字数も多く、情報も充実してるものだった。やるじゃん、『JAZZ LIFE』。

そのインタビュー中で、くだんの未発表音源のバンド「イースタンサウンド・スペース・アーケストラ」についても触れられていた。なので、僕も存在だけは知ってたが、記事中で「レコードは残されてない」と書かれていたから、まさかその音を聞けるとは思っていませんでしたね。
youtubeにアップした人の説明文だと、フリーマーケットでテープを見つけたそうです。そんなこともあるんだ。うらやましい。

『JAZZ LIFE』のインタビューによると、マイルスもこの「イースタンサウンド・スペース・アーケストラ」に興味をもっていてライブを見にきたりしたという。
実際、音を聞くと同時期の70年代電化マイルスに通じるものがある。
記事だと何と琴にワウワウペダルを直結させて(!)使ったりもしたそうだが、アップされた曲には使われてないようだ。どんな音になるんだろう?


余談だが、このインタビューによるとスペースマンはニューヨークに出てきてからはジェイムス・ブラッド・ウルマーの家に居候していたそうで、ウルマーから「お前は俺より若いんだから俺の10倍は練習しなきゃいかんぞ」と言われて、毎日一緒に練習してたとのこと。ということでウルマーはスペースマンの師匠的存在なのかもしれませんな。
メルヴィン・ヴァン・ピーブルズの『GHETTO GOTHIC』であまり歪ませてない音でブルージーなソロを弾き倒してるんだけど、ウルマーの音に近い感じがしましたし。



前述のとおり、スペースマンに関しての雑誌記事もほとんど無く、ネット上の日本語で書かれたものもほとんどないようなので、彼の活動について書いておく意味もあるかと思い、つらつらダラダラと書いてみました。


テキストだけだとあれなんで、いくつか曲を紹介しておきましょう。

菊地雅章「New Native」

名盤『ススト』に入ってる一曲。NHKで放送された、スペースマンが参加している菊地のバンドAAOBBのライブでも演奏してました。『ススト』は菊地成孔デートコースペンタゴンロイヤルガーデンが収録曲の「サークル/ライン」を取り上げたことで再評価された印象があります。ちなみにDJロジックも『ススト』がお気に入りって言ってましたね。


デイヴィッド・サンボーン「Got To Give It Up」

R&B色が強くてめちゃくちゃカッコよかったサンボーンの『アップフロント』『ヒアセイ』にも参加。これは『ヒアセイ』に入ってるマーヴィン・ゲイの名曲。


デイヴィッド・サンボーン「Ramblin」

こちらは『アップフロント』収録。オーネット・コールマンの名曲をファンキーにアレンジ。スペースマンのワウを利かせた可愛い音でのソロが面白カッコいい。


ウルトラマグネティックMC's「Yo black」

ラップを乗せるシンプルなギターのカッティングがカッコ良し! この曲が入った『THE FOUR HORSEMEN』ではベースやフェンダーローズも担当。


中村照夫が09年に立ち上げた新しいレーベル「チータ・レーベル」にもよく参加してます。
オナージェ・アラン・ガムス「Inner City Blues」

オマー・ハキムとヴィクター・ベイリーも参加したピアニスト、オナージェのアルバムの1曲。
キャリアが長いのに、まだソロアルバムを出してないスペースマンなので、このチータ・レーベルで出してほしいなあと期待しています。